稲吉 大輔
弱い立場の人が、
泣き寝入りしなくていい世界をつくる。
それが、この事務所の原点です。
法律家になった原点
法律家を目指した原点は、どこにあるのでしょうか。
私の家庭は、両親の仲がとても悪かった。父が母に手を上げることもありました。激しい夫婦喧嘩を、子どもの頃から見て育ちました。
そんな中で母が言ってくれた言葉があります。「弱い者の味方になってほしい」と。大学に入り、司法試験に挑戦しようと決めたとき、やはり立ち返ったのはその言葉でした。力がなくても、お金がなくても、その人の声を代弁できる仕事がしたい。法律ならそれができると思った。それが出発点です。
「力がなくても、お金がなくても、その人の声を代弁できる。法律ならそれができると思った。」
法律家の中でも、まず「裁判官」を選んだのはなぜですか?
裁判官は、誰からも拘束されない。裁判所の中にも上司がいるわけではなく、憲法と法律と良心だけに従って判断を下す。公正な判断を通じて正義を追求できる仕事だと思いました。
京都地裁で2年半の初任を経て、佐賀地方裁判所に赴任しました。交通事故、破産、金融ADR、少年事件、遺産分割――さまざまな事件を通じて、多くの人の人生の断面を見てきました。
「憲法と法律と良心に従って判断する裁判官なら公正さや自分の正義を追求できると思った。」
裁判官を辞めた理由
裁判官という安定したキャリアを、なぜ手放すことを選んだのですか。
理由は佐賀にいた頃の、諫早湾干拓事業をめぐる訴訟で見た同期の姿、幼い子どもを亡くしたお母さんの、被害者として意見陳述を聞いた刑事事件での経験にあります。
どれほど嬉しい場面でも、どれほど悲しい場面でも、裁判官は涙を流してはいけない。公正らしさが損なわれるからです。
でも同時に、目の前で苦しんでいる人に対して、自分の気持ちを殺して接しなければならない場面が積み重なっていった。
裁判官の仕事を続ける中で、「当事者の想いに、寄り添えない」という不自由さの方が大きくなっていきました。
「依頼者と共に喜び、共に悲しむ。弱い立場の人の隣に立ち続ける。それができる仕事がしたかった。裁判官では、それができなかった。」
退官の決断に、迷いはありましたか?
迷いがなかったと言えば嘘になります。裁判官として公正中立を追求することは誇りでした。また、家族のことも考えました。でも、任期の10年を終えたとき、「次の10年も同じことを続けるのか」と自分に問うたとき、答えははっきりしていました。
安定を失うことより、自分の信念に反することの方が、ずっと怖かった。退官を決めたのは、迷いではなく、覚悟でした。弁護士になって、最後の最後まで依頼者の味方でいること。10年かけて積み重ねた確信でした。
「裁判官として稲吉大輔という人間を出せない。自分は法壇の上から、感情を殺して見ているだけだった。経験と葛藤からの答えでした。」
事務所を設立した理由
弁護士に転身して、すぐにうまくいきましたか。
正直に言えば、全然うまくいきませんでした。弁護士は、訴えを起こすかどうかの判断から、交渉、解決後のケアまで、すべてを自分で組み立てなければならない。当事者との距離感もまったく違う。そのギャップに苦しみました。
勤務弁護士としては2つの事務所でお世話になり、どちらの事務所でも、素晴らしい先輩弁護士に学ばせていただきました。特に、2つ目の事務所の創業者が掲げていた「士魂商才」という言葉が、ずっと頭に残っています。
「士魂商才」は弁護士としてのプロフェッショナリズムと高い倫理観と「弁護士」という肩書きへの信頼にあぐらをかかず、自分を律し続けること。
そして、「この人にお願いしたらなんとかなりそうだ」「この人なら話を聞いてくれそうだ」。そういう安心感や説得力を持つ人間になること。これが本質なのだと、今は考えて仕事に取り組んでいます。
「自分のあり方を根幹から見直さなければ、弁護士としてやっていけなかった。うまくいかなかった過去を乗り越えたからこそ今がある。」
弁護士に転身して、学んだことはなんですか。
2つの弁護士事務所で勤務し、多くのことを学びました。案件の進め方、依頼者との接し方、経営の現実。その経験の中で、「法律で人を守る」だけでなく、「人と人との関係を健全にする」こと。依頼者に寄り添うだけでなく、その先にいる社会全体の調和を考える。「自分が本当に実現したい弁護士像」が明確になっていきました。
その思いは、「和敬」という事務所名にも込められています。人と人、組織と組織の間に和と敬いが生まれる。そういう社会の橋渡し役になりたい。それが私の考える弁護士としての在り方です。
「裁判官とは全く違う案件への向き合い方、そして人と人との関係を健全にするための弁護士としての在り方。」
事務所の理念
和敬法律事務所が掲げる理念を教えてください。
「声なき人の声になる」。これが事務所の理念です。
皆さん、自分の主張をとことん伝えられるかというと、なかなかできない。加害者とされる方にも「ここは言えますよね」という部分はあるし、被害者の方にも「ここまで要求していいのだろうか」という迷いがある。それを整理して、きちんと届ける。交渉もコミュニケーションですから、言いたいことが言える環境を、事務所の中でも外でも大切にしたいと思っています。
弁護士が扱う場面は、人が亡くなったり、大きな怪我をされたり、重い出来事ばかりです。起きてしまったことは消えない。でも、一区切りをつけることはできる。最後に少しでも笑顔になってもらえたら、それが弁護士の仕事の根っこにある価値だと思っています。事務員も勤務弁護士も、同じように笑顔でいてほしい。
「声なき人の声になる。それが、この事務所の存在理由です。」
「すべての人を笑顔にする」というビジョンは、どこから来たのですか?
元裁判官としての経験から、論理的・公正な判断力は自分の武器です。でもそれだけではなく、依頼者の感情や背景をしっかり受け取る温かさも、同じくらい大切にしたい。その二つを妥協せず持ち続ける事務所を作りたかった。それが「すべての人を笑顔にする」という言葉に込めた意味です。
法律の相談に来られる方は、皆さん何かに困り、悩み、不安を抱えています。相談が終わったとき、その顔に少しでも笑顔が戻る。それが弁護士という仕事の、一番根っこにある価値だと思っています。
「裁判官と勤務弁護士の両方の経験から弁護士としての在り方を問うた。その経験から来たのが「すべての人を笑顔にする」だった。」
この事務所の特徴
和敬法律事務所はどんな事務所ですか。
大阪・西天満は弁護士事務所が集まる法曹の街にある「小さな弁護士事務所」です。法曹の街であると同時に大阪天満宮を擁する商人の町でもあります。義理人情、なにわ節。私が大事にしている「士魂商才」ともリンクしているこの場所で事務所を構えているのは偶然かもしれませんが、何かの縁なのだと感じています。
お金や量ではなく、人間関係をきちんと築いていく。それが「町の弁護士」の意味だと思っています。この地に根ざしながら、地域の企業や個人の方を支え続ける事務所として、和敬の名にふさわしい場所を作っています。
「法曹と商人の街である大阪西天満にある地域の企業や個人を支える事務所。それが和敬法律事務所です。」
和敬法律事務所を、これからどんな事務所にしていきたいですか。
一言でいえば、「頼んでよかった、と長く思い続けてもらえる事務所」です。一時的に問題を解決するだけでなく、企業の経営者や個人の方が長く信頼して相談できるパートナーであり続けたい。企業法務・顧問業務の分野では、「顧問弁護士がいる」ということが経営者の方の安心感になる。問題が起きてから動くのではなく、問題が起きる前に整えておく。その予防法務の価値を、もっと多くの方に届けていきたいと思っています。
本当はどんな依頼でも受けられるのが理想です。困っているからこそ来てくださっている。法律上難しい場合でも、その中で提供できるものはきっとある。それを生み出していける事務所でもありたいです。
「その場を解決するだけでなく、企業や個人のパートナーとして信頼を積み上げていく。そんな事務所を目指します。」
一緒に働く仲間へ、思うこと
一緒に働く弁護士に、どうあってほしいと思っていますか?
「こうあるべき」を押しつけるつもりはありません。ただ、弁護士という国家資格には、資格がない人では得られない信頼と特権的な業務がある。それを活かして「誰の役に立ちたいのか」を、自分の中で掘り下げてほしいと思っています。今すぐ明確でなくてもいい。でも、その問いを持ち続けることが大切です。
また、弁護士には「聴く力」が必要なんです。法律の知識は、勉強すれば身につきます。でも、人の話を聞く力、相手の感情を受け取る力は、意識して磨かないと身につかない。知識の前に、「人の問題として向き合う」ことを大切にしてほしい。それができれば、あとは一緒に進むだけです。
「その場を解決するだけでなく、企業や個人のパートナーとして信頼を積み上げていく。そんな事務所を目指します。」
若手弁護士がミスをしたとき、どう接しますか?
大体のことは取り返せます。本当に謝れば許してもらえることの方が多いです。起きたことを消すことはできません。でも、そこからどうリカバリーするか、どうすればもう一度信頼してもらえるかを考えることはできる。
私にも言ってもらわないと、一緒にどうするかの話ができません。だから、正直に報告してほしい。ミスは一見悪いことですが、自分のやり方やあり方を見直すきっかけにすれば、むしろチャンスになる。私自身もミスをします。そのたびにそう思っています。
「報告してくれれば、一緒に考える。それだけです。ミスより、一人で抱え込む方が問題だと思っています。」
採用の面接では、どんなことを大切にしていますか?
私は面接を、「こちらが選ぶ場」ではなく、「双方向で話す場」だと思っています。こちらから一方的に評価するのではなく、相手がどんな人で、何を大切にしていて、どんな弁護士になりたいのかをちゃんと聞きたい。そのうえで、この事務所がその方にとって本当に合う場所かどうかを、一緒に考えたいんです。
「選ぶ立場であると同時に、選ばれる立場でもある」。そのスタンスは、採用においても変わりません。入所後に「思っていた場所と違った」となるのが、双方にとって一番不幸なことです。だから正直に話し合える場にしたい。それが、私が面接で心がけていることです。
「あなたの想いが私の想いと交差し、より高い夢を実現できるか。これを正直に話し合い、一緒に考える時間にしていきたい。」
最後に。〜伝えたいメッセージや想い〜
司法試験を受けた動機や、弁護士を選んだ理由が、皆さんにはあると思います。その原点を掘り下げてみてください。自分の人生や生き方として何を重視していたのかが見えてくると、活力ややる気が変わってきます。私自身がそうでした。
うちの事務所に来ていただくことで、どんなことができるのか。こういうことがしたいという思いがあれば、今の体制でどうサポートできるかを一緒に考えます。「どんなことしてくれますか」と聞かれると、こちらも何ができるかなという感じになってしまう。だから、まずはご自身がどうしたいのかを聞かせてください。
和敬法律事務所は、まだ発展途上の事務所です。だからこそ、一緒に作っていける余白がある。あなたの言葉を、まず聴かせてもらいたいと思っています。
