任意後見で後悔しないために!デメリットとその対策・トラブル事例を徹底解説!

この記事は、任意後見で後悔しないために押さえておきたいポイントについて、元裁判官、元検察官、今、弁護士の稲吉大輔が解説します。

クライアントの相談にのる弁護士

稲吉 大輔 - 弁護士 –
・元裁判官
・現弁護士
・大阪弁護士会所属
元裁判官だからこそわかる、トラブルになる前の対策に強い弁護士。

任意後見制度とは、将来、ご本人の判断能力が低下した場合に備え、あらかじめ選んだ人(任意後見人)に、財産管理や生活に関する事務を任せるための制度です。
ご本人が誰に後見人をお願いしたいかという意思が尊重される点において、非常に有効な手段といえます。
しかし、その一方で、契約内容や後見人選びを誤ると、大きなトラブルに発展するリスクも。
長年、任意後見制度に関する多くの事案に携わってきましたので、その経験を元に解説しています。
この記事の目的は、単に法律の条文を解説することではありません。実務を通して見てきた事例を交えて任意後見制度のリアルを、ありのままにお伝えします。
この記事を読めば、後悔しないための具体的な対策がわかりますので、ぜひ参考にしてください。
稲吉法律事務所では、任意後見で後悔しないためのお手伝いをいたします。
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知らないと後悔する任意後見制度のデメリットとその対策

任意後見人の権限は限定的

任意後見制度で任意後見人が行えるのは、任意後見契約書に記載された財産管理や身上監護(本人の生活・健康・療養に関する支援をすること)に関する事務のみです。
任意後見人には任意後見契約書に記載がない限り、「取消権」がない点に注意が必要です。
本人が認知症になった後、詐欺被害に遭ったとしても、任意後見契約書に記載がない場合は、任意後見人はその契約を取消すことができません。家庭裁判所に法定後見制度への移行を申し立てる必要があります。
このように、任意後見人の権限は限定的であるため、契約を結ぶ際には、どのような事務を任せるのかを具体的に、かつ詳細に定めておくことが非常に重要です。

費用が高額になることがある

任意後見制度にかかる費用は、大きく分けて2つあり、特に制度利用開始後の費用が、想定外の出費になりがちです。

項目 自身で行う場合 専門家に依頼する場合
公正証書による任意後見契約書の作成費用 2万円程度 5~30万円程度
任意後見監督人選任の申立費用 1万円程度 10〜15万円程度
任意後見人への報酬 親族が任意後見人になる場合:無償~3万円程度(月額)
専門家が任意後見人になる場合:3~5万円程度(月額)
任意後見監督人への報酬
  • 基本報酬(通常の監督業務に対しての報酬)
    管理財産額が5,000万円以下:1~2万円(月額)
    管理財産額が5,000万円超:2万5千円~3万円(月額)
  • 付加報酬(追加や特別な業務に対する報酬)
    基本報酬額の50%までの範囲内

任意後見契約の効力が発生すると、家庭裁判所が必ず任意後見監督人を選任します。この監督人が選任された時に、費用が発生し始めます。
監督人への報酬は、原則として本人が亡くなるまで続きます。
「家族が任意後見人になるから費用はかからない」と考えている人も多いですが、「専門家が後見人になるよりは費用はかからない」と認識を改めていただく必要があります。法律上、任意後見監督人は必ず選任されるため、この監督人への報酬は避けて通れません。

死後の手続きには対応できない

任意後見制度では、「死後の手続」には対応できないという点を理解していないと、後々家族に大きな負担をかけることになります。
任意後見人の職務は、本人が亡くなった時点で自動的に終了します。
つまり、以下のようないわゆる「死後事務」と呼ばれる行為は一切行うことができません。

  • 銀行口座の解約
  • 電気や水道などの公共料金の停止
  • 介護施設からの退去手続
  • 葬儀に関する費用や手続など

多くの人は、任意後見人に任せれば、自分の死後のことも安心だと思いがちですが、これは大きな誤解です。
この問題に対処するためには、「死後事務委任契約」を別途、任意後見契約とは別に締結しておく必要があります。死後事務委任契約を結んでおけば、あらかじめ決めておいた人に、死後の手続を任せられます。

発効するための手続が複雑

公正証書で任意後見契約を結んだら、それで完了だと考えがちです。しかし、実際に任意後見契約の効力が発生するのは、本人の判断能力が不十分になった後、家庭裁判所に任意後見監督人選任の申立てを行い、任意後見監督人が選任された時点です。
この手続には、以下の書類を準備しなければなりません。

  • 本人の戸籍謄本や住民票、登記事項証明書
  • 任意後見人の住民票や身分証明書
  • 本人の診断書

さらに、家庭裁判所での面談や、書類の不備による再提出など、手続が完了するまでに数ヶ月かかることも。
この手続の複雑さにより、早急に財産管理が必要になった場合でも、任意後見契約が発効するまで動くことができず、後悔するケースがあります。
このような事態を避けるために、任意後見契約を締結する際に、司法書士や弁護士などの専門家に相談し、発効後の手続についても事前に確認しておくことが大切です。

 

弁護士実務でよく見る任意後見人の後悔・トラブル事例

任意後見監督人の選任を家庭裁判所に申請していない

任意後見契約は、公正証書を作成しただけでは効力がありません。
本人の判断能力が低下し、実際に任意後見人のサポートが必要になった時点で、任意後見人になる予定だった人が、家庭裁判所に任意後見監督人選任の申立てを行う必要があります。
この申立てが認められ、監督人が選任されて初めて、任意後見契約が発効するのです。
しかし、この手続の存在を知らない、あるいは手続が面倒で申立てをしていないケースが後を絶ちません。その結果、以下のような問題が発生し、後悔につながります。

  • 銀行口座の引き出しや解約などができず、医療費や介護費の支払いに困ってしまう
  • 詐欺被害の対応ができない
  • 他の親族から「横領ではないか」「手続をきちんと踏んでいない」と疑われる

任意後見契約は、公正証書作成後も、発効手続が必須であることを忘れないようにする必要があります。

財産管理を望み通りに行うには、契約内容が不十分

任意後見制度は、契約書に書かれていることしか行えないという制限があります。この点を理解せずに契約を結んでしまうと、いざという時に柔軟な対応ができません。
「将来、認知症になったら自宅を売りたい」と本人が望んでいたとしても、具体的な条項が含まれていなかった場合、自宅を売却できません。
この場合、任意後見人はその権限を持たないため、別途、法定後見制度を利用する必要が出てくるなど、法定後見制度を利用する、時間もかかります。
また、「持っているアパートの空室対策として、大規模なリフォームを行いたい」という場合も同様です。
契約書に「不動産の管理・修繕」に関する条項はあっても、その範囲や上限金額が曖昧なために、望み通りの財産管理ができないというトラブルもあります

任意後見人が財産を私的に使ってしまう

法律上、任意後見人は、本人の財産を善良な管理者の注意義務をもって管理する責任があります。
しかし、家族や親族が任意後見人になる場合、「身内だから大丈夫だろう」と、後見人が財産を自分のために使ってしまうケースがあります。
例えば、以下のような事例が見られます。

  • 「親の医療費のため」と称して多額の現金を引き出し、私的な借金の返済に充てる
  • 本人の預金口座から生活費を勝手に引き出し、家族旅行や高価な買い物に使う
  • 本人の不動産を相場より安く売却したとして、一部の代金着服する

本来の目的であるはずの介護費用や生活費が不足する事態を招きます。
他の親族からの告発や、家庭裁判所による調査で不正が発覚し、後見人の解任や返還請求といった法的なトラブルに発展することも珍しくありません。
監督人は、定期的に財産状況をチェックしていますが、任意後見人を選ぶ際には、金銭管理能力や倫理観を見極めることが不可欠です。

後見人から一方的に契約を解除されてしまう

任意後見契約の効力が発生し、任意後見監督人が選任された後でも、任意後見人は家庭裁判所の許可を得れば、正当な理由がなければ辞任できません。
しかし、「本人の言動が原因で後見事務が困難になった」「親族から苦情を言われる」といった理由で、後見人が一方的に辞任を申し立てるケースも。
たとえ辞任が認められても、その後任が見つかるまでには時間がかかり、その間、本人の財産管理や生活が宙に浮いてしまうことになります。
特に、任意後見人が親族ではない専門家の場合、報酬や事務の負担が想定以上だったり、本人や親族との意思疎通がうまくいかなかったりすると、契約を解除されるリスクは高まります。
任意後見人を決める際には、安易に引き受けてくれる人を選ぶのではなく、将来にわたって責任を果たせるかどうかが重要です。

 

元裁判官弁護士が考える「任意後見制度の利用者が少ない」理由

長年、家庭裁判所の裁判官として、私は多くの事案に接してきました。その経験から、任意後見制度の利用者が法定後見制度に比べて少ない理由は、主に以下の3つにあると考えています。

「制度の複雑さ」と「認知度の低さ

多くの方が、任意後見制度という名前は知っていても、具体的な手続やメリット・デメリットを深く理解していません。
公正証書の作成、そして将来の家庭裁判所への申立てといった複雑な手続を知って、どうしても敬遠してしまうのが現状です。

「任意後見監督人」の存在

任意後見監督人への報酬は、制度を利用する側にとって大きな負担になります。
法定後見人を選任する場合も費用はかかりますが、任意後見の場合は「家族が後見人になるから費用はかからない」と勘違いしている方が多いです。
監督人への費用負担が明らかになった時点で、利用を諦めてしまうケースが少なくありません。

「家族への過度な期待」と「家族間の対立」

「後見人には家族がなればいい」と安易に考えている方が多いですが、裁判実務では家族間のトラブルが原因で制度がうまく機能しないケースを多く見てきました。
財産管理の責任、他の親族からの疑念など、家族が背負う精神的負担は大きく、そのリスクを事前に理解できていないことも利用が進まない一因です。

 

任意後見で後悔しないために併用したい制度

1. 家族信託

任意後見制度は財産管理を任せられますが、不動産事業や大家さんのように不動産の積極的な運用や、複数の財産を一括して管理することには不向きです。
一方で、家族信託は、ご自身の財産を信頼できる家族に託し、目的に沿って管理・運用してもらう制度です。
例えば、所有する不動産を信託財産にすれば、本人が認知症になった後でも、受託者である家族が適切な時期の売却や修繕、改装、改良をスムーズに行えます。
任意後見+家族信託を併用することで、財産管理は家族信託で柔軟に行い、介護や生活に関する手続は任意後見人が行うというように、それぞれの制度のデメリットを補い合うことが可能です。

2. 死後事務委任契約

任意後見人の職務は、本人の死亡と同時に終了します。そのため、葬儀や医療費の清算、公共料金の解約といった死後事務には対応できません。
死後事務委任契約は、ご自身の死後、あらかじめ決めておいた人(受任者)に、葬儀や納骨、行政手続などを任せるための契約です。
任意後見契約と死後事務委任契約をセットで結んでおくことで、生存中から死後まで、一貫したサポート体制を築くことができます。

3.見守り契約

見守り契約とは、本人の判断能力が低下する前から、見守り人となる人が定期的に本人と連絡を取り、安否確認や健康状態、生活状況などをチェックする契約です。
見守り人は定期的に本人と会うことで、本人の判断能力がいつ低下したかを正確に把握できます。これにより、任意後見監督人選任の申立てを行うべきタイミングを逃さずに済みます。
また、本人の生活で金銭トラブルの兆候、詐欺被害に遭うリスクなどがないかを確認し、早期に対応することで、将来的なトラブルを未然に防ぐことも可能です。

4.財産管理等委任契約

財産管理等委任契約は、財産管理や生活に関する事務を、信頼できる人に任せるための契約です。任意後見契約と似ていますが、大きな違いは、本人の判断能力が低下していなくても効力が発動する点にあります。
これは、本人が病気や怪我で一時的に判断能力があっても事務作業が困難な場合や、高齢で煩雑な手続を自分で行うのが難しくなった場合に有効な制度です。
財産管理等委任契約なら、契約書に記載された日付から効力が発動するため、本人が認知症になる前から利用できます。
また、任意後見契約とは異なり、家庭裁判所の関与はありません。契約内容や手続は、本人と財産管理を任される人の間で自由に定められます。
任意後見と同様に、財産管理のほか、介護や医療に関する手続などの身上監護事務を任せることも可能です。

 

任意後見制度のよくある質問

任意後見制度は必要ですか?

もし、将来的に判断能力が不十分になった際に、財産管理や生活に関する手続を「自分で選んだ特定の人」に任せたいのであれば、任意後見制度は有効です。
というのも、法定後見制度とは異なり、自身の意思を事前に反映させられるから。
しかし、財産がほとんどなく、家族が献身的にサポートしてくれる見込みがある場合など、状況によっては必ずしも必要ないケースもあります。
「必要かどうか」を判断するためには、自身の財産状況や家族関係、将来の希望などを総合的に考慮することが大切です。
具体的なシミュレーションをするためにも、専門家(弁護士や司法書士)に相談してみることをおすすめします。
稲吉法律事務所でも、任意後見制度の利用をするべきかどうかの相談受付を行っておりますので、ぜひ一度お気軽にご相談ください!

任意後見制度と法定後見制度の違いは?

簡単にいうと、自分で後見人を決めるのが「任意後見」、裁判所に決めてもらうのが「法定後見」です。
任意後見制度と法定後見制度の最大の違いは、「誰が後見人を選ぶか」と「いつ手続きを行うか」にあります。
任意後見制度は、本人の判断能力が十分なうちに、本人が自分で後見人を選び、契約を結んでおく制度です。後見人になる人や、任せたいことを自由に決めることができるため、本人の意思が最大限に尊重されます。
一方、法定後見制度は、本人の判断能力がすでに不十分になった後に、家庭裁判所が後見人を選任する制度です。後見人には親族だけでなく、弁護士や司法書士が選ばれることも多く、本人の希望が反映されない場合があります。

任意後見制度と家族信託の違いは?

<p簡単にいうと、任意後見は「本人の生活全般」を、家族信託は「特定の財産」を守るための仕組みです。
任意後見制度と家族信託は、どちらも財産管理を目的としますが、その目的とできることが大きく異なります。
任意後見制度の目的は、 本人の生活や財産を保護すること。本人の財産管理に加え、介護や医療の契約など、本人の生活全般に関わる事務を行えます。しかし、財産の積極的な運用や、本人の死後の手続には対応できません。
一方、家族信託の目的は、 特定の財産を家族に託し、円滑に管理・承継すること。
主に不動産や預貯金など、信託された財産の管理や運用を行い、本人の死後、スムーズに相続させることも可能です。一方で、介護や医療の契約といった身上監護はできません。

任意後見人になれる人は?

任意後見人には、原則として誰でもなれます。
例えば、自身の子供や兄弟姉妹といった親族、あるいは親しい友人でも、任意後見人になれます。
また、専門家に依頼したい場合は、弁護士、司法書士、社会福祉士といった専門職の人でも可能です。
ただし、以下の事由に該当する人は任意後見人になれません。

  • 未成年者
  • 家庭裁判所で法定代理人等を解任された人
  • 破産者
  • 本人に対して訴訟を起こした人、またはその配偶者・直系血族

上記に該当しない人で、本人が心から信頼でき、長期にわたって後見事務を任せられる人を選ぶようにするとよいでしょう。

 

後悔しない任意後見のためにも稲吉法律事務所へご相談ください!

任意後見制度は、自身の将来を安心して託すための重要な手段です。しかし、専門的な知識なしに手続を進めたり、契約内容を安易に決めたりすると、後悔してしまうケースが少なくありません。
法律の条文だけでは分からない、実際の運用で起こりうるトラブルを熟知しているからこそ、状況に合わせたアドバイスを提供できます。

  • 「任意後見人、誰に頼むべき?」
  • 「家族間で揉めないようにしたい」
  • 「後見監督人への費用負担が心配」
  • 「家族信託とどちらが良いか迷っている」

このようなお悩みや不安をお持ちの方は、ぜひ一度、稲吉法律事務所へご相談ください。
元裁判官、元立法担当者として強みを持っておりますので、将来にわたって後悔のない選択ができるよう、全力でサポートいたします。
無料相談も受付中ですので、お問い合わせフォームよりお問い合わせをお待ちしております。

 

クライアントの相談にのる弁護士

稲吉 大輔 - 弁護士 –
・元裁判官
・現弁護士
・大阪弁護士会所属
元裁判官だからこそわかる、トラブルになる前の対策に強い弁護士。

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